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M One News 2009

M One News 09-40           2009/07/28 壁①

 安部公房の小説『壁』の中に、『魔法のチョーク』という短編があります。
 
 主人公の画家のアルゴン君は、あるとき魔法のチョークを手に入れます。
 壁に絵を描けば、その絵が本物になって現れるという魔法のチョークです。
 
 貧乏で常に空腹のアルゴン君は、食べ物の絵を描いて、食べ物を取り出しては食べて、空腹を満たす毎日をおくっているのでした。
 
 
 ある日、アルゴン君は窓を壁に描いてみます。
 ところが、窓は現実にならない。
 
 何故なら、窓の向こうの世界をアルゴン君が描けないからなのです。
 彼は、もんもんとして、見たことのない窓の向こうの世界をあれこれ想像するのですが、描けない。
 数週間、それこそ一生懸命になって考えるのですが、どうしても正確には描けない。
 
 
 このアルゴン君は、例えば、私であるかもしれません。
 歩けばいつか壁に突き当たります。
 迂回しようとしても、壁はどこまでも続いています。
 
 壁の向こうにぜひ行ってみたいのに、壁の手前で途方に暮れている私。
 あるいは、壁がどこかで途切れてはいやしないかと捜し回っている私。
 
 ここにはない理想や夢は、壁の向こう側にあるかもしれないと思うからです。
 
 
 壁は可能性を与えてくれるものかもしれない。
 壁を乗り越えることで、今の自分の限界を変えられるかもしれない。
 
 でも乗り越えられないと、アルゴン君と同じように、私も結局は壁に吸い込まれてしまうかもしれませんね。

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