M1村田宏彰公認会計士事務所
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安部公房の小説『壁』の中に、『魔法のチョーク』という短編があります。
主人公の画家のアルゴン君は、あるとき魔法のチョークを手に入れます。
壁に絵を描けば、その絵が本物になって現れるという魔法のチョークです。
貧乏で常に空腹のアルゴン君は、食べ物の絵を描いて、食べ物を取り出しては食べて、空腹を満たす毎日をおくっているのでした。
ある日、アルゴン君は窓を壁に描いてみます。
ところが、窓は現実にならない。
何故なら、窓の向こうの世界をアルゴン君が描けないからなのです。
彼は、もんもんとして、見たことのない窓の向こうの世界をあれこれ想像するのですが、描けない。
数週間、それこそ一生懸命になって考えるのですが、どうしても正確には描けない。
このアルゴン君は、例えば、私であるかもしれません。
歩けばいつか壁に突き当たります。
迂回しようとしても、壁はどこまでも続いています。
壁の向こうにぜひ行ってみたいのに、壁の手前で途方に暮れている私。
あるいは、壁がどこかで途切れてはいやしないかと捜し回っている私。
ここにはない理想や夢は、壁の向こう側にあるかもしれないと思うからです。
壁は可能性を与えてくれるものかもしれない。
壁を乗り越えることで、今の自分の限界を変えられるかもしれない。
でも乗り越えられないと、アルゴン君と同じように、私も結局は壁に吸い込まれてしまうかもしれませんね。
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