M1村田宏彰公認会計士事務所
TEL 03 - 5367 - 6101
info@cpa-murata.com
バレンタインの直前に、あるカップルは喧嘩をして別れてしまう。
彼が仲直りしようと思っていた矢先、「彼女はあなたの記憶をすべて消しました」という手紙がクリニックから届き、ショックを受ける。
彼女に会いに行くと、自分のことを全く覚えていない彼女の態度に、彼女は本当に自分の記憶を消したのだとわかり、さらにショックを受ける彼。
思い悩んだ挙句、つらい記憶を消そうと、彼女同様、そのクリニックを訪れる。
自分も彼女との記憶を消去するために・・・。
そんな冒頭シーンから始まる映画「エターナル・サンシャイン」。
誰にもつらい記憶や嫌な記憶はある。
その記憶が心のとげのようにささったままだったり、ふとしたことで蘇って仕事や勉強が手につかなくなったり。
忘れようとすればするほど、ますます頭を離れなくなる・・・。
いっそのこと、きれいさっぱり忘れてしまいたいと願うのは、誰しも同じだ。
「忘却はより良き前進を生む」(ニーチェ)
ニーチェの言葉どおり、記憶を消す手術を受け始めた彼だったが、彼女こそ記憶から消してはいけない大事な女性であると次第に気づき、最後は必死に抵抗を試みる。
器具につながれ、別れから出会いの新鮮さに遡る記憶を逆行する中で、愛したり、喧嘩したり、葛藤したりした毎日を思い出す。
そして、甘い愛の言葉をささやきあうだけでなく、葛藤や喧嘩などを含めた全体こそが、2人の絆であり、「現実」だったと悟るのだ。
きっと、2人とも記憶を消したのは1回だけではあるまい。
医院に行けば、簡単にリセットしてくれる。
喧嘩してできた心の傷に耐えられない、もうイヤだ!
と、楽しい記憶もあるものの、つらい記憶の方が多いから、完全に忘れようと、記憶を何回も安易に消してきたはずだ。
にもかかわらず、また出会い、惹かれ、別れ、記憶を消すという、同じ行動を繰り返すことも、映画の中で明らかになる。
失敗を次に生かすのは、難しい。
特に男女関係はなおさらだ。
映画では、ニーチェの言葉に続いてもう1つ、言葉が紹介される。
「忘却は許すこと」(アレキサンダー・ポープ)
2人は徐々に気づき始める。
過ちは消せばいいってものじゃない、と。
忘れ去るのではなく、乗り越えなければ、前進はない。
そう、過去を捨てることでは何も生まれないのだ。
つまり、ニーチェの言う「忘却」は、捨て去ることではなく、許すことだったのだ。
今後もきっと、このカップルは大きな喧嘩をするだろう。
だが、もう記憶消去には走らないはずだ。
現実を受け入れ、乗り越えることこそが、成長へのステップだと学んだのだから。
不器用な2人がそれに気づき、お互いに深く理解しあったところで、映画は終わる。
「気持ちを変えて振り返ってごらん。
気持ちが変われば世界も変わるから。」
ベックのエンディング曲が心に響く。
アレキサンダー・ポープはこうも言っている。
「間違っていたと認めるのを決して恥じるべきではない。
それは、言い換えれば、昨日よりも今日の方が賢くなったということだから」
→ 目次へ戻る